ダイクストラおばちゃん

最近、偶然プログラミング初心者に接する機会が続いた。初心者にもいろいろあるが、中でも印象深い女性のことを思い出したので書いておきたい。

大昔、ちょっとした業務改善のシステムを開発することになって、実際にその業務を行っている事務や経理の方々に話を伺ったことがある。

この時お会いした年配の女性が、すさまじいほどのExcelのエキスパートだった。当時のPC環境はまだまだ原始的で、動作も不安定だったが、彼女は独学でExcelマクロを開発し、かなりの業務の自動化に成功していた。

話を聞いてみると、とくにプログラミングの勉強をしたことはなく、本を数冊読んだ程度で、あとはExcelのヘルプだけを頼りにマクロを組み上げたらしい。まだインターネットもさほど普及していない時代だ。ほぼ自分の頭だけで考えて、ここまでたどり着いたのだろう。素晴らしい出来栄えだった。

一番驚いたのは、彼女が重要なソフトウェア工学の原則を独力で再発見していたことだ。「処理は機能ごとの関数に分割するとわかりやすいんですよ」とか、「意味のある名前を付けてあげるのが一番大事なんです」とか、自分の発見を体系化し、明確なルールとして運用していたのだ。私は戦慄した。なんてことだ、このおばちゃんダイクストラやんけ!

この時点で、彼女がExcelを使い始めてからまだ数年。どこまで成長するのだろうか。私は背筋に冷たいものを感じながら彼女に礼を言い、インタビューを終了したのだった。